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風景の建築 [2017/07/30 08:08]
mmp 作成
風景の建築 [2017/09/02 11:17]
mmp
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-風景の建築 +**風景の建築** 
-Published by stezo+
  「風景」を考えるようになったのは、いつの頃からであろうか。意識の上で顕在化したのは「建築」よりもずっと後のことであるが、潜在的には、おそらく子供の頃まで遡ることになるだろう。もっとも古い風景の記憶が何歳くらいのものなのか……。真っ白な雪一面の田んぼ道を、白い山羊を引きながら歩く兄の後ろを必死になってついてゆく情景が、今でもはっきり蘇る。これが私の「原風景」というものなのであろう。春、田んぼ一面に広がるレンゲ草の上に寝転がると、自分の身体が空に向かって落ちていきそうに感じた不思議な体験。夏、ホタルを捕まえに行った夜のこと、降りしきるようなカエルの鳴き声と、闇に舞いゆらめく光の軌跡。秋、稲刈りをする親たちの仕事を手伝う合間、田んぼの土手でイナゴを捕まえた手のひらの感覚。冬、風がつくる雪丘のアンジュレーションと、表面が冷えて固く張ったその雪の上を渡ってゆく面白さ。――生まれ育った環境のせいもあろうが、子供の頃の思い出はなぜか「自然」と「風景」につながるものが多く、記憶の内容もビジュアルなものが多い。  「風景」を考えるようになったのは、いつの頃からであろうか。意識の上で顕在化したのは「建築」よりもずっと後のことであるが、潜在的には、おそらく子供の頃まで遡ることになるだろう。もっとも古い風景の記憶が何歳くらいのものなのか……。真っ白な雪一面の田んぼ道を、白い山羊を引きながら歩く兄の後ろを必死になってついてゆく情景が、今でもはっきり蘇る。これが私の「原風景」というものなのであろう。春、田んぼ一面に広がるレンゲ草の上に寝転がると、自分の身体が空に向かって落ちていきそうに感じた不思議な体験。夏、ホタルを捕まえに行った夜のこと、降りしきるようなカエルの鳴き声と、闇に舞いゆらめく光の軌跡。秋、稲刈りをする親たちの仕事を手伝う合間、田んぼの土手でイナゴを捕まえた手のひらの感覚。冬、風がつくる雪丘のアンジュレーションと、表面が冷えて固く張ったその雪の上を渡ってゆく面白さ。――生まれ育った環境のせいもあろうが、子供の頃の思い出はなぜか「自然」と「風景」につながるものが多く、記憶の内容もビジュアルなものが多い。
  そんな田舎の風景を後にして、「建築」をめざして上京したのは何年前のことになろうか。入学式の帰り、ひとりで代々木のオリピック屋内競技場を見学に行き、吊り屋根構造が造る力強い曲面天井を見上げながら、トリ肌をたてて、「よし、オレもいつかきっと、こんなスゴイ建築をつくるぞ!」と、決意を新たにしたものだった。めざすは丹下健三―ということで構造デザイン研究会に入り、その気になっていたものの、構造力学で単位を落とし、早くも挫折。やがて、白井晟一やカルロ・スカルパといった建築家の作品をとうして建築への関心も、ダイナミックな構造表現やテクノロジカルな造形表現から、素材感やディテール、歴史様式をモチーフにしたデザインや精神性の高い空間表現へと変わっていった。その一つの結論が「数寄屋」であった。そして数寄屋建築への思い入れは、やがて「庭」への関心へと広がってゆくことになる。  そんな田舎の風景を後にして、「建築」をめざして上京したのは何年前のことになろうか。入学式の帰り、ひとりで代々木のオリピック屋内競技場を見学に行き、吊り屋根構造が造る力強い曲面天井を見上げながら、トリ肌をたてて、「よし、オレもいつかきっと、こんなスゴイ建築をつくるぞ!」と、決意を新たにしたものだった。めざすは丹下健三―ということで構造デザイン研究会に入り、その気になっていたものの、構造力学で単位を落とし、早くも挫折。やがて、白井晟一やカルロ・スカルパといった建築家の作品をとうして建築への関心も、ダイナミックな構造表現やテクノロジカルな造形表現から、素材感やディテール、歴史様式をモチーフにしたデザインや精神性の高い空間表現へと変わっていった。その一つの結論が「数寄屋」であった。そして数寄屋建築への思い入れは、やがて「庭」への関心へと広がってゆくことになる。